見た目は普通のマンション。でも中に入ってみると、めちゃくちゃチャーミングなお部屋だった。
地下鉄中央線の西に位置する大阪港駅。海遊館や大観覧車のある、いわずと知れた大阪のレジャースポットだ。訪れたことのある人も多いだろう。
駅から海遊館とは反対方向に徒歩 5分、14階建てのマンションが2棟並んでいる。コーシャハイツ港という物件だ。
見た目は普通の高層マンション。さらに、大阪港というおよそ生活感のイメージのないロケーション。周辺は住友倉庫のレトロな倉庫、市営団地など、海遊館のある賑やかな天保山エリアとは対照的な静けさ。
この物件の空家をリノベーションでなんとかしてほしいと頼まれたときには、正直不安だらけだった。本当にお客さんがくるのか? しかし、その不安は一瞬にして払拭されることになる。
大阪市住まい公社の担当者にお部屋を案内してもらうと、これまた普通の2LDKの間取りのお部屋。小ぎれいな内装で、これといった特徴のない物件だ。
しかし、リビングのカーテンを開けてみると・・・
南港とつながる港大橋の巨大なトラス橋を望むパノラマビュー。 窓一面に広がる美しいアーチを描く赤い橋。港大橋というトラス橋だ。その足下には海と荷積みする巨大クレーンが並ぶ港の風景。遠くに海鳥の声と船の汽笛がこだまする。窓を開けた瞬間に心地の良い海風が吹き込んできて、港町の雰囲気が一気に部屋に広がった。
大阪の中でもこれほど開放的で、でもどこかのどかさが感じられるロケーションの物件は希少だろう。しばしここに佇むうちに、いろんな妄想が広がった。この部屋に友達を呼んで自慢したいし、カップルでロマンチックな夜景を楽しみたい。子どもがいれば、行き交う船を眺めて盛り上がるだろう。ウッドデッキを敷いてテーブルセットを用意しても余りあるバルコニーでは、ご飯を食べたりティータイムも楽しめる。
素敵なライフスタイルを妄想しながら、リノベーションの構想を膨らませている。
レトロ建築に、アートに、銭湯!? 水族館だけじゃない!大阪港の魅力。
大阪港の物件のすぐ近くにある赤レンガ倉庫群。 大阪港の周辺を歩いてみると、いろいろな発見がある。
たとえば、レトロ建築。かつて物流の拠点として大阪の玄関口と呼ばれた大阪港。地方から船で出て来た人々が多く住んでいただけあって、昔の面影の残る建物がちらほら。
物件の近くの住友倉庫もその一つで、赤いレンガ造りの大正時代の倉庫群。大半は閉鎖されて間近でみることはできないが、コーシャハイツの上層の部屋からはその倉庫群を俯瞰してみることができる。
街角に建つレトロなビル。昭和の時代にタイムスリップ!? 右の写真は雑貨カフェ「ハaハaハa」のアンティークな雰囲気たっぷりの店内。 海遊館から南にちょっといったところには、商船三井築港ビル・天満屋ビルという並んだ2棟のレトロビルがある。いずれも築80年を超えた近代建築で、色褪せたタイルやスチールサッシや木製建具、エントランスの雰囲気などぐっとくる。
ただレトロというだけでなく、今もちゃんと使われていて、商船三井築港ビルの地下1階にはGallary Yamaguchiという現代アートのギャラリーや、上の階にはデザインや建築事務所などクリエイターが集まっている。
お隣の天満屋ビルの2階には「ハaハaハa」というかわいらしい雑貨&カフェ。ランチやティータイム、ヨガ教室やキャンドルナイトなどのイベントもたまにやっているようで、ちょっと覗いてみたくなる。
古い鉄骨造をリノベーションしたモダンなギャラリーCASO。 アートと言えば、先の住友倉庫のレンガ倉庫街の東側にも「海岸通ギャラリーCASO」というレンタルギャラリーがある。関西の芸術系大学の展覧会や国内外現代美術作家の個展/グループ展、レクチャーなど現代芸術のイベントが頻繁に開催されている。倉庫をリノベーションしたこのギャラリーは、倉庫らしい雰囲気を残しつつニュートラルなしつらえで、2階には建物内外を見渡せるラウンジスペースが。建物の隣にはテキサス料理「HIDAY'S」というレストランバーも併設。大阪港は小さなアートの集積地なのだ。
街にひっそり佇む銭湯たち。寿温泉は現役営業中! 大阪港から東にある弁天町・朝潮橋エリアには、昔ながらの銭湯がたくさん残っている。かつてこの地には「潮湯場」と呼ばれる西洋医学の治癒医療が元となった浴場が多く立地していた。大阪港にも築港温泉というこれまたレトロな銭湯があったが、今は残念ながら閉鎖されている。
だが、朝潮橋や弁天町には寿温泉、稲荷温泉、竜宮温泉、みなと温泉など、昭和な雰囲気を残す素敵な銭湯が街なかに隠れている。なかでも、弁天町の下町の一角にある寿温泉のレトロな佇まいはすごい。しっくいの真壁に格子天井、浴場の床の石畳と目地のタイル、御影石、伝統建築が時を積み重ねることで醸し出される重厚さを、お湯と共にじっくり味わうことができる。ちょっと足を伸ばして下町の銭湯へ、という生活も楽しそうだ。
自転車ライフもあり? 渡船で南へ東へ。
USJのある此花区へとつながる天保山大橋。橋の下には様々な船が行き交う。 水都大阪というだけあって、大阪港を含む港区エリアは川や運河が入り込んでいて、街中で水辺の雰囲気を感じることができる。
大阪港の北側・安治川を渡るとUSJのある此花区、運河を隔てて東側には朝潮橋、弁天町、そこから南へなみはや大橋を渡ると大正区。四方を運河に囲われているのだが、その中で興味深いのは渡船(トセン)というシステムだ。
なかなか馴染みの無い言葉だが、水路が発達した大阪ならではで、観光目的ではない日常的な動線として利用されている。いわば動く橋だ。徒歩はもちろん、自転車でも乗船可能で、15〜30分間隔に出航している。なんと公営で、タダで乗れる。
天保山渡船場は一日900人もの人が利用する日常動線だ。 天保山大橋のたもと・天保山公園からの乗り場からは、此花区桜島へ。なみはや大橋を渡り、鶴町から木津川運河を渡す船町渡船、さらに南へは木津川を渡る木津川渡船、といった具合に、橋と渡船を使えば、なんと玉出まで行けてしまうのだ。
橋の高低差を乗り越えるにはやや根性がいるが、水辺だけあってフラットな地形で実は西区のお隣に位置する港区。自転車で都心に行くのも苦にはならない。
大阪港駅の下を通るみなと通から本町通を抜ければ、これまた10km満たないくらいで本町につく。1時間かからないだろう。 みなと通には自転車専用レーンがあり、安心して走れる。
大阪はサイクルディスタンス。ほどよい都市の大きさだからこそを感じられる、心地よい距離感。自転車ライフを楽しむ人もいるだろう。
そんなことを考えながら、この普通のマンションを面白く住むプランを考えた。そのプランの紹介はまた次回。